もともと医学系の出身で、ここ20年ほど外資系製薬会社の研究開発部門で仕事をしています。そうした中、MBA取得を志したのには二つ理由がありました。一つはキャリア面です。管理職になるに従って戦略立案などの管理系業務が増え、その知識を補強する必要性を感じました。同時に、自らのキャリアを、医薬品を患者さんに届ける上での戦略立案にステップアップしたいとも考えました。
もう一つはライフ面です。30代のほぼ10年間は母の介護に重きを置いた生活でした。母を看取り、そのあと自分が乳がんになってしまい、“メーターが振り切れた”感がありました。その後1年近くぼんやりする日々でしたが、40歳を過ぎて初めて自分のためだけに使える自由時間を得て、もう一度学生になって新しいことを学んでみたい、そして、それを今後の人生で役立てていきたいと思いました。上司の勧めもあって一橋ビジネススクール(経営管理プログラム)を受験し、2019年4月に入学しました。
受験前に他大学と比較検討した際に、一橋は真にアカデミックな環境で勉強できる点が最も魅力に感じました。経営管理プログラム(千代田)を選択したのは、仕事を続けながら通うには夜間であるこのコースが適していたこと、校舎が勤務先から至近距離にあり、通いやすいことが決め手でした。
入学後の優先順位は(1)仕事、(2)健康、(3)MBAと定め、ブレないようにしました。ですから、1年目の春夏学期の後、秋冬学期は、その時の仕事の状況で、しばらくは両立が困難だと判断したため、休学しました。1回休んだことが、実はMBAを取得できた一番の成功要因だと思っています。この休学を挟み、約2年半で卒業しました。
職場ではMBAに通っていることを周囲に伝えていたので、レポートで行き詰まった時に同僚や部下からアイデアをもらうなど、様々な協力が得られました。コロナの影響で2020年度はオンライン授業中心となり、職場でもそれまで以上に在宅勤務が可能になったため、両立しやすくなった面がありました。通勤時間削減に加え、朝や昼食時などの細切れの時間も活用できたためです。
一年次の導入ワークショップ(WS)は三隅隆司先生、2年次のWSは島本実先生のご指導をいただきました。2年次のWSでの私自身のテーマは医療経営分野であり、具体的には、質の高い医療サービスの持続性のために、中小の一般病院においてどのような病院経営を行うべきかを研究し、WSレポートにまとめました。島本先生のご指導で印象的だったのは、「自分の研究に自信を持ちなさい」という言葉です。「なぜ」に対し、このテーマに関しては自分が一番詳しいんだと思えるぐらい徹底的に調べる、それによって自信をもって発表ができ、執筆ができる。これは仕事にも応用できると感じました。WSレポートで対象にしたエリアの病院についてでしたら、私は今、社内で一番詳しい自信があります(笑)。
WS以外でも印象的だった講義が多数あります。一例を挙げれば、田中一弘先生の「経営哲学」は、おそらく一橋でないと受けられない授業の一つだと思います。渋沢栄一の『論語と算盤』に由来する「公益と私益の両立」という考え方は、私の研究テーマである医療に落とし込んだときにも非常に有効な観点でした。
また、榎戸康二先生(「経営者講義」担当、元パナソニック代表取締役専務)の、「在り方とやり方の双方が重要」という言葉も記憶に刻まれています。テクニカルな「やり方」を学ぶだけではなく、人として、経営者としての「在り方」が大事だという考え方は、今後の大きな指針になりました。
一橋は先生方が大変素晴らしく、情熱的で魅力に溢れています。更に、同級生からも様々な刺激が得られました。私は比較的、自分と類似した医薬系バックグラウンドの人が多い環境にいることが多かったので、多様なバックグラウンドの同級生とのディスカッションにより、確実に視野が広がったと思います。今後は今までのキャリアで得た知識や経験と一橋で学んだことを生かしながら、医薬品が持つ価値を高めていくことによって医療全体に貢献していければと思っています。
これからMBAを目指す人や在校生に伝えたいのは、「悩んだら、ちょっとつらい方を選んでみる」ことです。楽な方に傾くのでなくて、大変な方にチャレンジすると得られるものも大きい。一橋ビジネススクールでは悩んでいる暇がないぐらい密で充実した時間を過ごすことができるので、ぜひ挑戦していただくと、さらにその先の挑戦が見えてくるのではないかと思います。
(2022年4月掲載)